夏目漱石の「彼岸過迄(ひがんすぎまで)」は、1912年に発表された長編小説です。ミステリーのようでもあり、探偵小説の雰囲気も感じさせる物語となっています。
それでは夏目漱石「彼岸過迄」の、簡単なあらすじを紹介します。
夏目漱石「彼岸過迄」あらすじ
夏目漱石が久しぶりに執筆することに対して、「面白いものを書かなければいけない」という語りから始まります。
六つのものがたり
この作品は、六つの短編小説を連ねることで、一つの長編小説が完成する構成です。
最初の「彼岸過迄に就て」という序文で、1910年に大病を患ってから、久しぶりに執筆作業に取りかかる気持ちを綴っています。
そこから六つの物語が進んでいくのが特徴です。
章の題名は、それぞれ「風呂の後」、「停留所」、「報告」、「雨の降る日」、「須永の話」、「松本の話」。
物語は最初の章である「風呂の後」の主人公・敬太郎と、彼の周りを取り囲む人物たちの人間模様などが描かれています。
就職を目指す敬太郎
大学を卒業したものの、職に就けないでいる田川敬太郎から物語は始まるのです。
彼は同じ下宿先の、森本という男と風呂で出会い親しくなります。ですが、あるとき森本は、突然姿を消すことに。
森本からの手紙を、敬太郎は見つけます。書かれている内容に従って行動すると、森本のステッキを受け取りました。
その後、敬太郎は大学の友人・須永の叔父、田口に就職の世話を頼もうとします。だけど、なかなか会うことができません。
しかし、森本のステッキを持って行ったところ、ようやく彼に会うことができたのでした。
田口のいたずらと周囲の関係
無事に田口に会うことができた敬太郎。それから彼に頼まれて、ある男の行動を調べることになりました。
男は親しげな女と共にいましたが、特に怪しい様子はありません。
途中で車に乗ってしまったため、敬太郎は彼らを見失ってしまいました。
その後、怪しいことは何もなかったと報告すると、その男に紹介状を書き始めます。
敬太郎が調査した男は、実は田口の義兄である松本だったのです。一緒にいた女は、田口の娘の千代子でした。
調査の依頼は田口のいたずらだったのですが、その経験を通じて、敬太郎と田口家との関わりがより深くなったのです。
須永の秘密
最後の二章では、須永と千代子の恋愛話に変わります。二人はお互い想い合っていましたが、なぜか須永は千代子を避けている状態です。
須永の母は、二人をくっつけようとしています。だけど、彼は自分と彼女が求めているものが異なると言って拒むのです。
松本は叔父として須永を心配し、彼の悩みを聞きます。
すると、千代子を避ける理由が、自分と母が実の親子ではない可能性にあると明かされるのです。
松本に説得され、須永は気持ちの整理をしようと、関西に一人で旅に出ることを決意します。
やがて松本の元へ、須永からの手紙が毎日届くようになりました。
彼が外の世界へ目を向けるようになったのだと、松本は思うのです。
感想
最初の章は敬太郎が主人公ですが、最終的には須永がメインになっています。
主人公が変わっていく流れ
短編を組み合わせた長編の形になっているので、話の流れで主人公も代わっていったのかなという印象です。
敬太郎は狂言回し的な役割だったのかなとも思います。
結末でも、彼の役割は聴くことに過ぎないとありますので、主人公というよりは聞き役だったのでしょう。
彼が物語に入れなかったのは、敬太郎にとって幸せなことでもあり、役不足でもあるみたいですね。
男と女の掛け合い
須永と千代子の恋愛模様は、ちょっとモヤモヤします。煮え切らない態度の須永に、「あなたは卑怯だ」と千代子も言っていますね。
というもの、千代子に対してハッキリしないくせに、須永は嫉妬する気持ちを少し見せてしまったのです。
この場面は男と女の掛け合いともいうべきシーンであり、とても面白く読み進めました。
その嫉妬心に気付いた千代子は、高笑いをしながら侮蔑の表情を見せます。
しかもさらに間抜けなことに、「なぜ卑怯なんだ」と須永は問いかけるのです。
自分でも自分の不甲斐なさが分かっていながら分からないフリをしている、そんな思惑は、女性には筒抜けということなのでしょう。