川端康成の「伊豆の踊子」は何度も映像化されているので、小説を読んだことがないけれど内容を知っているという人はたくさんいると思います。
美空ひばりさんや吉永小百合さん、山口百恵さんという、名だたる女優たちが踊り子を演じていることでも有名です。
そんなふうに、何度も映像化されるほどの名作である「伊豆の踊子」の、簡単なあらすじを紹介します。
川端康成「伊豆の踊子」あらすじ
物語は、自分の存在価値に悩む青年が、旅をするところから始まります。
青年の伊豆への一人旅
二十歳の青年である主人公は、自分の性格が孤児根性で歪んでいることが嫌になっていました。その憂鬱から抜け出すために、一人で伊豆への旅に出かけます。
旅の途中で彼は旅芸人に出会い、一人の踊り子に心惹かれます。一座を率いるのは踊り子の兄。家族で旅芸人をしているとのことです。
彼らと仲良くなった青年は、一緒に下田まで旅をすることになりました。
踊り子たちとの触れ合いの中で
天城峠の茶屋で、青年はおばあさんから旅芸人を軽蔑するような発言を聞きます。青年は腹が立ちました。同時に、踊り子が心配でたまらなくなります。
しかし翌朝、湯から出て裸のまま無邪気に手を振る彼女の姿は、純真な子供のままなのだと、とても安堵するのです。
旅を続ける中で、踊り子をはじめ旅芸人一行との触れ合いを通して、青年は悩みであった自分の歪んだ根性を克服できると感じました。
一人ぼっちの映画
下田に到着して東京に帰る日の前日、青年は踊り子たちを映画に連れて行こうとします。しかし、踊り子だけしか都合がつかなくなり、二人の仲を怪しんだ母親は猛反対しました。
そのため青年は、一人で映画に行くことにします。ですが、すぐに帰ってきてしまい、暗い夜の町をいつまでも眺めるのでした。
遠くから踊り子たちが鳴らす太鼓の音が微かに聞こえるようで、涙がぽたぽたと流れるのです。
澄んだ心を取り戻す
東京に帰る日の朝、踊り子の兄だけが青年を乗船場まで送りにきました。しかし、海際に近づくと、踊り子が待っていたのです。
踊り子にいろいろ話しかけてみましたが、彼女は何も話しません。
そのまま何も言えないでいる踊り子、そして青年が船に乗り込み、二人は言葉を交わさないまま別れます。
帰りの船では、隣り合った少年の親切を、青年は素直に受け入れられるようになっていました。
涙を止めようとすることもなく、ぽろぽろと流れた後には何も残らないような甘い快さがあるばかりです。
感想
伊豆の踊子は、川端康成が実際に体験したことを元に書かれた小説であり、何度も映画やドラマになるほどの名作です。
癒されていく心
青年は14歳の少女に淡い恋心を感じます。しかし男女の関係という生々しいものではありません。
ただ少女との触れ合いの中で、自分の気持ちを癒していくのです。
だから本当のところ、恋とは違うのかもしれません。
世間と自分との間には越えられない壁があり、それを自分で克服することもできないで鬱々としている青年。そんな中で、純粋な少女と過ごすうちに、気持ちが素直になっていくのです。
心が荒んでしまうと、誰の言葉も皮肉に聞こえる時ってありますよね。そんな状態の主人公が癒されていく過程を綴っています。
美しい恋物語として
東京から伊豆を繋ぐ列車に「踊り子号」があります。もちろんこの小説にちなんで付けられた名前であり、それだけ世間に認知されていた作品なのでしょう。
小説が列車の名前になり、舞台となった伊豆へ人々を運んでいるなんて、とてもロマンチックですね。
そんなロマンチックな美しい恋物語としても素敵ですが、人がどんな風に癒されていくのかということもよく分かる小説だと思います。