志賀直哉の長編小説「暗夜行路(あんやこうろ)」は、大正11年に発表されました。短編が多い志賀直哉の、唯一の長編作品になります。
元々「時任謙作」という題名で構想していましたが挫折、その後「暗夜行路」として完成しました。執筆を始めてから17年も掛けて作り上げた物語とは、一体どんな内容なのでしょう。
それでは志賀直哉「暗夜行路」のあらすじを簡単にご紹介します。
志賀直哉「暗夜行路」あらすじ
主人公は、作者である志賀直哉自身がモデルだと言われています。
時任謙作の出生の秘密
時任謙作は、母が他界した後に祖父に引き取られます。その祖父が逝去し、祖父の愛人であったお栄とともに暮らすようになります。
謙作は自意識が強く、自己嫌悪に陥ることがよくありました。気分転換に転居や旅をしてみましたが、気が晴れるのは最初だけで、やがて孤独感に襲われるのでした。
耐え切れなくなった謙作は、お栄と結婚することを考えます。それを手紙で兄に伝えると、兄から反対されました。
実は、謙作は母と祖父の過ちによって生まれた子だったのです。
度重なる不幸
ますます落ち込んだ謙作でしたが、そのショックを乗り越えて、直子という女性と結婚します。彼女との間に子供も授かりましたが、その子は生まれてすぐに亡くなってしまいます。
謙作は自分が何かに呪われているとさえ感じていました。そんな中、お栄が知人に騙されて、朝鮮で困ったことになっていると聞きます。
謙作はお栄を迎えに朝鮮へ行きますが、その間に妻の直子は彼女のいとこと過ちを犯しまうのでした。朝鮮から帰った謙作はその事実を知り、さらに参ってしまうのです。
大自然の中で思うこと
謙作は転機を求めて、鳥取の大山にある蓮浄院というお寺に行きます。そこで十日ほど滞在するなかで、自分たち夫婦のことをじっくり考えました。
ある日、大山の頂上を目指す途中に、案内人とはぐれてしまいました。その時謙作は、自然と一つになったような感覚になります。
自然の大きさと自分たち人間の小ささを、身にしみて感じるのでした。
暗夜行路に終止符を打つ
大自然の中で精神が清められた謙作は、全てのことを許せるような心境に達していました。こうして、彼の人生の暗夜行路は終わったのです。
しかし、その後病気にかかり、危篤状態となってしまいます。かなりの重症ということで、寺の者が直子に連絡をしました。
驚いた直子は蓮浄院にやって来て、謙作が助かるにしろ助からないにしろ、ずっとこの人に添い遂げようとしきりに思うのです。
感想
この小説は、好き嫌いが分かれそうな作品だと思います。
主人公の生活の謎
主人公は同情するべきところはあるのでしょうが、そもそも一体どうやって生活しているのかという点が謎です。
吉原で遊んでみたり、引っ越ししてみたり、旅行に行ってみたり。何をしても気分が晴れないのはお気の毒ですが、ではその気分転換の費用はどこから出ているのでしょう、とひがみ根性で見てしまいます。
もしかしてこの主人公はニートだったのでしょうか……。
簡潔な文体
何をしても気が晴れない鬱々とした男が、さまざまな経験を経て、暗夜行路から抜け出せたというお話です。正直、あまり好きな物語ではありませんでした。
しかし、無駄のない簡潔な文体リズムは、するすると頭に入ってくると思います。
志賀直哉は小説の神様と呼ばれるほどの作家であり、その主な作品は短編小説です。ですので、個人的には短編をおすすめします。