夏目漱石のこころは、学校で習ったという方がとても多い作品でしょう。
こころが発表されたのは、明治から大正に変わり、自由な思想へと変化していく時代でした。
明治天皇崩御に伴い、当時の陸軍大将だった乃木希典(のぎまれすけ)夫妻が後を追い、この出来事が夏目漱石に大きな影響を与えたと言われています。
夏目漱石はこころという作品に、時代の終わりと始まりを反映させたのではないでしょうか。
こころのあらすじ
あらすじを説明する前に登場人物5人を把握しておきましょう。
- 私…主人公、大学生
- 先生…私が先生と呼ぶ男性(名前は分からない)
- 奥さん…先生の妻
- K…先生の大学時代の親友(謎の死を遂げている)
- 未亡人…先生が大学の頃、お世話になっていた下宿先の主人
- お嬢さん…未亡人の娘で後の先生の妻となる人
この5人の人物を軸として物語は進んでいきます。
先生と私との出会い
私が大学の教授たちの言葉や思想に対して尊敬する事が出来ずにいたころ、先生と出会いました。先生は隠居状態で周りとの接触を避け、自分さえも嫌っているような人でした。
しかし時折、人生の教訓のようなことを私に教えてくれ、次第に魅力を感じるようになったのです。
先生には奥さんがいましたが、奥さんに対しての態度は冷たく目を合わせようともしませんでした。奥さんは自分を嫌っているのではないかと心配していました。
私は先生の過去を知りたくなり、そのことを先生に告げると「私の過去をあばいてでもですか。」と言われます。
田舎の私の元に届いた先生の遺書
そんな矢先、私の父親が病気である事を知り田舎に帰省します。
しかし父親の病気は一向に治らず、なかなか東京へ戻ることが出来ずにいた頃、先生から長い手紙が送られてくるのです。
手紙には先生の過去が書かれていて、最後には「この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう。」と書かれていました。
私に届いた先生の過去
先生が大学生の頃、未亡人の家に下宿を始めました。未亡人には娘がいて、手紙にはお嬢さんと書かれています。このお嬢さんは後に先生の奥さんとなった人です。
下宿生活を送るうちに、先生は次第にお嬢さんに恋心を抱くようになりました。そんな時、親友のKも下宿先に一緒に住むようになったのです。
そしてKも先生と同じようにお嬢さんに恋心を抱き始めてしまいました。
ある日、Kは先生にお嬢さんに好意を持っていることを先生に告げます。それを聞いた先生は焦り、未亡人にお嬢さんとの結婚を申し出たのです。そして未亡人もまたその想いを受け入れました。
命を絶ってしまった2人
しかし先生はKにそのことを言い出せずにいましたが、未亡人からその話を聞いてしまったKは、先生宛の遺書だけを残し自ら命を絶ったのです。
遺書には先生が原因だとは書かれていませんでしたが、先生はずっと自分の事を許せずにいたのです。
そして先生は手紙の最後に書かれていた通り、自らの命を絶ちました。
感想
先生はずっと自責の念に苛まれてきました。友人を出し抜き裏切ったこと、Kを追い詰めたのは自分だったのではないだろうかと。
先生が自分の人生を自らの手で終わらせた原因はなんだったのかは分かりません。しかし時代が明治から大正に変わったこと、乃木大将の自刃が、きっかけのひとつだったのではないのかと考えられます。
時代の終わり、明治と終焉を共にしたのです。
現代の私たちが思うよりも、遥かに明治の思想というものはその時代を生きた人たちにとって、とても重いものだったのではないでしょうか。
実際に乃木大将が明治天皇の後を追ったことについては、明治を象徴する出来事として、また、その時代の思想を反映するエピソードとして語られることが多いです。
夏目漱石は今までの精神のままではなく、これからの新しい時代へ繋げる気持ちの表れとして、こころを描いたのでしょうか。
殉死については、大正当時の世相を反映させたと言われている小説に、森鴎外の「阿部一族」があります。こちらも興味深い物語となっていますのでぜひ読んでみて下さい。