金田一耕助シリーズの一つである「獄門島」は、横溝正史の長編小説です。
島の因習に縛られて暮らす人々を舞台にした物語であり、その独特の雰囲気が読むものを魅了する作品でしょう。
そんな獄門島の、簡単なあらすじを紹介します。
横溝正史「獄門島」あらすじ
事件は、屏風に描かれた俳句に見立てて実行されていきます。
謎めいた千万太の言葉
金田一耕助は、戦友であった鬼頭千万太(きとうちまた)がマラリアで亡くなったことを知らせるため、彼の故郷である獄門島の了然和尚(りょうねんおしょう)の元へと向かいます。
島では鬼頭の本家と分家が対立しており、千万太は本家に属していました。
千万太の従兄弟で分家の一(ひとし)は生き残り、戦地での無事が確認されましたが、和尚は複雑な気持ちでいたのです。
金田一は千万太が亡くなる寸前に言っていた、ある言葉が気になっていました。
彼は、自分が息絶えれば妹である「月代、雪枝、花子」の3人が、亡き者にされると言います。
そして本当に、金田一が島に来て3日目、花子が梅の木に逆さに吊るされて果てていたのです。
三姉妹の事件
金田一は千万太の言葉を思い出し、残りの2人も危ないと感じます。そして、金田一の心配は、現実のものとなるのです。
花子に続き、今度は雪枝が千光寺の鐘の中で亡くなっているのが発見されます。
さらに雪枝の通夜の晩、月代が祈祷所で無残な姿となって見つかりました。
彼女の周りには、萩の花が敷かれていたのです。
金田一はこの一連の事件を、千光寺にある屏風に描かれた3つの俳句になぞらえたものだと気付きます。
先代・嘉右衛門の影
この一連の事件には、先代が深く関わっていると感じた金田一。彼は分家の当主である儀兵衛に話を聞きます。
そこで本家の先代・嘉右衛門は、家の将来を案じて島の長老である和尚、医者の幸庵、村長に何かを託したと話しました。
三姉妹の母親のお小夜は嘉右衛門と仲が悪く、憎んでいた女の血が入った娘が家を継ぐことに悲観していたのです。
嘉右衛門は花子、雪枝、月代を、亡き者にすることを望んでいました。
最期の頼み
金田一は和尚と面談し、そこで事件の真相が語られます。
千万太が帰らぬ人となり、三姉妹が本家を継ぐことになれば、本家の存続が危うくなると思った嘉右衛門は、一(ひとし)に本家を継がせたいと考えていました。
そこで邪魔な存在となる三姉妹の始末を、嘉右衛門は息を引き取る寸前、和尚たちに依頼したのだと言います。
全てが明らかになると、金田一は和尚に村長が島から逃亡したことと、幸庵も発狂したこと、そして実は一も亡くなっていたことを告げます。
和尚はショックのあまり、その場で息絶えたのでした。
最終的に鬼頭家は、一(ひとし)の妹である早苗が継ぐことを決意して、物語は終わります。
感想
家の将来を悲観して、憎んだ女の娘を亡き者にという依頼をする嘉右衛門も怖いですが、それを実行してしまう島の老人たちもかなり不気味です。
現代ではこの動機は理解できませんが、もしかして今でもこんな因習に縛られている村や島があるのかもしれません。
俳句の見立て
先代の嘉右衛門が、自分の孫娘の始末を頼んだ背景には、かなり深刻な事情があります。
まず憎んでいたお小夜は、嘉右衛門の息子の後妻です。このお小夜は、後に発狂しています。
さらに嘉右衛門の息子も気が狂って、座敷牢に閉じ込められているのです。
この2人の娘である花子、雪枝、月代もなんだかおかしい様子。
兄の千万太が亡くなったというのに、ふざけて騒いで男に夢中になっています。怖ろしい因果を感じますね。
嘉右衛門は家を守るために、お小夜への憎しみだけでなく、三姉妹の始末を依頼しました。
そうして嘉右衛門が残した俳句になぞられて、花子は了然和尚が、雪枝は村長が、月代は幸庵がぞれぞれ手に掛けます。
1977年公開の映画
獄門島は何度も映像化されていますが、映画といえば、市川崑監督と石坂浩二さん主演作品が一番有名だと思います。
原作と犯人は微妙に違いますが、とても素晴らしく描かれている作品です。
この映画には、放送禁止用語になった言葉が何度も出てきます。いわゆるクレイジーを日本語にした言葉です。
映像化するとどうなるんだろうと思いますが、1977年の映画では、この言葉はそのままセリフとして使われています。
今だとテレビ放送する際にはピー音が入ると思います。しかし、ピーで消されてしまうと、ちょっとストーリーが分からなくなってしまうかもしれません。
出演女優の美しさ
ちなみに映画では、若かりし頃の浅野ゆう子さんがエキセントリックな月代を演じています。
早苗役は大原麗子さん、島の床屋の娘役は坂口良子さんです。
昔の映画を見ていつも思うのですが、女優さんの素朴だけど美しい雰囲気にとても魅力を感じます。
今の女優さんももちろんキレイだけれど、なんだかゴチャゴチャしているように感じるのは気のせいでしょうか(笑)。
映画も原作も素晴らしく、とてもおすすめできる作品です。