横溝正史の長編小説である「悪魔の手毬唄」は、金田一耕助シリーズの一つです。
何度も映画やドラマになっていることから、後世のクリエイターたちに多大な影響を与えていることが分かります。
そんな人気作品である「悪魔の手毬唄」とは、一体どんなストーリーなのでしょう。簡単なあらすじを紹介します。
横溝正史「悪魔の手毬唄」あらすじ
物語は、劇中に出てくる手毬唄の歌詞に沿って事件が発生していきます。
鬼首村での事件
岡山と兵庫の県境にある鬼首村(おにこうべむら)では、由良家(ゆらけ)と仁礼家(にれけ)という、二つの名家が対立していました。
友人である磯川常次郎警部の依頼で、金田一耕助はその村を訪れます。
村には亀の湯という温泉宿があります。そこでは女主人である青池リカの夫・源次郎が、23年前に悲惨な事件によって命を落としていました。
その犯人である恩田幾三は、今も行方不明なのだと言います。
亀の湯の長男・歌名雄(かなお)と、由良家の娘・泰子は将来を誓い合う仲です。けれど、仁礼家の娘・文子もまた、歌名雄に想いを寄せていました。
家柄まで巻き込んだ三角関係が、この村では巻き起こっていたのです。
老婆と娘たちの謎
23年前の事件に関して聞きこみを始めた金田一は、峠でおりんと名乗るひとりの老婆とすれ違います。
おりんは、金田一が宿で親しくなった多々羅放庵の、5人目の妻の名前でした。
しかし聞きこみを続ける途中で、おりんが既に亡くなっていることを知ります。
そんな中、村出身の人気歌手・別所千恵子が帰郷するという話で、村中が盛り上がっていました。
だけど、千恵子は実は恩田の娘であり、子供の頃は犯人の娘としていじめられていたのです。
千恵子の帰郷を祝う席にはリカの娘・里子も向かいました。その途中で、見知らぬ老婆と泰子が並んで歩くのを見かけます。
その翌日、泰子は口に漏斗を差し込まれて滝壺で亡くなっていました。
泰子の通夜の翌日には、今度はぶどう酒工場の中で、文子が無残な姿で発見されるのです。
驚愕の事実が判明
金田一はこの事件が、村に伝わる手毬唄になぞらえたものであると推理します。
唄は、3番まで存在することから、第3の事件を予測するのです。
捜査を進める中で、泰子と文子は、千恵子と同じく恩田の娘であったという驚くべき事実が明らかになります。
さらに恩田と源次郎が、同一人物であることも分かりました。
金田一は、第3の標的は千恵子であると考えましたが、その予想は外れることになります。次の被害者は里子だったからです。
事件の真相
娘が亡くなり悲しむリカ。そこへやって来た千恵子に、一連の事件は自分が犯人だとリカは白状しました。
実は第3の事件は、千恵子を狙ったものでした。里子は千恵子の身代わりとなってしまったのです。
23年前、リカは恩田と源次郎が同一人物であると知り、激怒して夫を手に掛けます。その現場を放庵に目撃されてしまったのです。
それ以来、放庵に脅されてきたリカは、おりんに扮して放庵もその毒牙に掛けます。
また、顔にあざを持つ娘の里子に対して、恩田の娘はみな美しいことに比べて、嫉妬の気持ちをリカは向けていました。
だから彼女たちを始末したのだと言います。
リカは警察の目を盗んで逃走し、自ら沼に身を沈めて命を絶ったのでした。
感想
この物語は、手毬唄になぞられて事件が進んでいきます。そのすさまじさは、映画やドラマになっても印象深く、見るものを惹きつけるでしょう。
ただただ里子が可哀想でしたね。だけど、歌名雄の状況もかなり悲惨ではありますが。
誰も救われないストーリーでありながら何度も映像化されているのは、それだけ魅力がある作品といえるでしょう。
手毬唄の見立て
まず最初の事件で、滝壺の途中に置かれた枡が水で満たされると、泰子の口に差し込まれた漏斗に注がれるという状態になっています。
次の文子は、竿秤を帯に差し込まれ、秤の皿には大判小判が置かれていました。
手毬唄の一番目は「升屋の娘~升で量って漏斗で飲んで~」、二番目は「秤屋の娘~大判小判を秤に掛けて~」となっています。
この村にはだいたい屋号があるみたいで、仁礼家は「秤屋」、由良家は「枡屋」、そのため手毬唄になぞられていると金田一は思ったのですね。
三番目の唄は「錠前屋の娘~小町娘の錠前が狂うた~」です。
そのため、「錠前屋」を屋号に持つ別所家の千恵子が三番目に狙われると推理しましたが、実際は里子でした。
哀しい愛憎劇
自分の母親の凶行に気付いた里子は、自ら身代わりとなったのです。
夫が色々なところで子供を作り、でも他の娘たちは器量も良くてお金持ち、しかし自分の娘は顔に目立つあざを持つ不憫な子。
そんな状況で、段々と憎しみが蓄積してしまったのだと思います。
それでも夫を愛し続けたことも、憎しみを打ち払えなかった理由のひとつでしょう。
「いっそ憎めたら」と、そんなセリフを劇中でリカも語っています。
哀しい物語ですが、とても惹きつけられる作品だと言えるでしょう。機会があったら読んでみてくださいね。