横溝正史の長編小説である「犬神家の一族」は、何度も映像化されている作品です。
中でも、1976年公開の映画は、「日本映画の金字塔」と評価されているほど。
特に、物語の重要人物であるスケキヨのインパクトは、映画を知らない人にまで影響力を及ぼしています。
そんな「犬神家の一族」とは、一体どんな内容なのでしょう。簡単なあらすじを紹介します。
横溝正史「犬神家の一族」あらすじ
物語は、信州の大富豪が亡くなる場面から始まります。
犬神佐兵衛の逝去
財界でも知名度を誇る信州の富豪・犬神左兵衛は、莫大な遺産と謎めいた遺言状を残して他界。
彼にはそれぞれ母親の違う三人の娘がいました。
三人とも婿養子を取り、息子を一人ずつ授かっていましたが、互いに対立をしていたのです。
彼の残した遺産の配当や、家業の相続者の記された遺言状は、顧問弁護士である古舘恭三に預けられていました。
ただし、遺言状を開封するのは、戦地に赴いていた長女・松子の息子である佐清(すけきよ)が戻ってからと決められていました。
そのため、一族は彼の帰りを待つことになるのです。
金田一耕助の登場
左兵衛が逝去した年の10月、金田一耕助は、犬神家の調査依頼の手紙を受け取ります。
送り主は、犬神家の顧問弁護士である、古舘の事務所に所属する若林豊一郎でした。
依頼を受けた金田一は、那須のホテルへ向かいました。ですが、二人が出会う前に、若林は旅館で毒により果てていたのです。
その後の捜査で、遺言状が開封された形跡が見つかりました。
若林が何者かに、毒を盛られたのではないかと推測されます。
ほどなくして佐清が帰ってくることになり、ついに遺言状が読まれる日がきたのです。
遺言状の開封
戻ってきた佐清は、白い仮面で顔面を覆っていました。中は火傷で黒くただれており、本当に佐清なのかと誰もが疑いの目を向けます。
遺言状の内容は、三種の家宝である「斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)」を、左兵衛の恩人である野々村の孫娘・珠代に託すというものでした。
ただし、珠代が遺産を相続する条件として、三姉妹の息子のうち誰かと結婚しなければいけません。
犬神家の壮絶な財産争い
血縁関係のない珠代に、全財産が渡るという遺言状を聞くと、三姉妹は激怒します。
この出来事をきっかけにして、三姉妹の仲はいっそう険悪になるのです。息子を珠代の婿にするための争いが、ここから展開していきます。
犬神家の壮絶な後継者争いが幕を開けますが、直後に竹子の息子である佐武(すけたけ)が何者かの手に掛かってしまいます。
彼の首は、菊畑にある菊人形の首とすり替えられていました。
その後も梅子の息子・佐智(すけとも)、そして佐清までが無残な姿で発見されていきます。
そんな中、金田一は珠代が野々村ではなく、左兵衛の実の孫娘であることを知るのです。
明かされる真実
左兵衛の孫は全滅したように思われましたが、そこへ本物の佐清が現われます。
亡くなったと思われていた佐清は、実は左兵衛が50歳を過ぎた頃に関係を持った青沼菊乃の息子・静馬だったのです。
そしてついに、佐武、佐智、静馬を手に掛けた真犯人が、長女・松子だったことが明らかになります。
佐清は、母である松子をかばって自首しようとしたのです。ですが、静馬に脅され、入れ替わりながら生活していたのだと告白します。
すれ違う母子の想い
松子は佐智を始末した後、佐清だと思っていた静馬から「お前の息子ではない」と言われたことで、ショックを受けて彼も手に掛けました。
母を庇うため、静馬の体を湖に投げ込んだのが佐清だったのです。佐清は共犯とみなされ、刑務所へ送られます。
しかし、息子が生きていたことに喜んだ松子は、佐清の出所まで結婚を待っていくれるかと珠代に確認した後、自ら命を絶ちました。
感想
犬神家の一族は、何度もドラマや映画になっています。小説は読んでいなくても、内容を知っている人は多いはず。
「金田一耕助シリーズ」といえば、分かりやすかもしれませんね。
スケキヨの存在感
中でも「犬神家の一族」の映画が大成功したのは、スケキヨのインパクトだといえるでしょう。
映画では白いゴムマスクを被り、その下の顔は怖ろしく焼け爛れていました。だけど、原作では佐清の顔に似せた、端正なマスクだと表現されています。
白いゴムマスクを作り上げたのは市川崑監督です。その強い印象から、度々ネタになっていますが、1976年の映画は空前の大ヒットとなっています。
スケキヨの最期
さらにスケキヨが発見された様子も、かなり印象深いシーンです。
湖に下半身を突き出すような格好で息耐えていたスケキヨの映像は、映画を知らない人でもどこかでみたことがあるはず。
三姉妹の息子たちの亡くなり方は、家宝である「斧・琴・菊」になぞられています。
そしてスケキヨの最期は斧に見立てられており、逆さになったスケキヨはヨキケス、さらに半身だけ見えている状態、すなわちヨキ、ということらしいです。
映画も原作も同じように面白い作品ですので、機会があったら横溝正史の世界観に触れてみてください。