江戸川乱歩の短編小説「人間椅子」は、映画化やドラマにもなっている作品です。
椅子の中で過ごす男から、罪を告白される女性作家の心理状況を描いた物語となっています。
そんな江戸川乱歩の「人間椅子」とは、一体どんな内容なのでしょう。簡単にあらすじを紹介します。
江戸川乱歩「人間椅子」あらすじ
物語は、ある裕福な暮らしをする女性が、手紙を読むところから始まります。
作家に届いた一通の手紙
女性作家の佳子(よしこ)は、外交官の夫を持ち、とても裕福な暮らしをしていました。
彼女は仕事へ行く夫を見送った後、自分の書斎に籠ります。
仕事に取り掛かる前、自分宛てに送られて来た大量の手紙に、目を通すことが日課となっていたのです。
ある日、彼女の元に、椅子職人と称する者からの手紙が届きます。
彼は貧しく容貌も醜いとのことでしたが、椅子作りの腕は評価されており、多くの椅子を作っていたのだといいます。
手紙には、そんな彼の犯した罪悪が、書き連ねられていたのでした。
椅子の中での生活
椅子職人は、あるとき出来心から、自分が制作した椅子に、人間が入れるスペースを作ります。そこに、自ら入り込むのです。
ところが、彼が中にいる最中、椅子は外国人向けの高級ホテルに納品されてしまいました。
彼は昼間は椅子の中で過ごし、夜になると椅子から出てきて盗みを働くようになります。
しかし、彼は自分が入っている椅子に女性が座る感触に、いつしか喜びを感じるようになっていました。
椅子の中から恋した相手
そんな中、ホテルの支配人が変わり、椅子職人が潜んでいた椅子は売りに出されます。
立派な椅子だったため、数日で買い手がつき、ある豪華な洋館の書斎に置かれることになりました。
やがて毎日この椅子に座り、著作に没頭する持ち主の女性に、椅子職人は恋をしてしまうのでした。
実はそれが、佳子が座っている椅子だというのです。
手紙には、一目でいいから佳子に会いたいという内容が書かれていました。
手紙の真実
佳子は気味が悪くなり、書斎を抜け出し居間にやってきました。そこで、女中から今届いたのだと、一通の手紙を渡されます。
長い間、佳子は手紙を開封するか悩みました。ですが、ついに読むことを決心します。
それは、やはり先ほど届いた手紙の主からでした。ただ、そこには先ほどの原稿はいかがでしたか、という内容が書かれていたのです。
小説の題名を「人間椅子」にとしようと考えているのだと、手紙の主は伝えます。
実は、一通目の内容は、手紙の主が考えた小説の原稿だったのです。
感想
結局オチは、ファンから送られてきた創作でした。
あなたの作品が好きだから、自分の原稿を読んで感想をくださいと、二枚目の手紙で伝えています。
ですが、それまで佳子は怖ろしくて気味が悪くて、オロオロしていたところにこの最後です。
佳子もそうですが、読み手もすごい勢いでガクンッとなったと思います。
皮一枚隔てた快感
椅子に張られた皮一枚で隔てた他人の体の感触を、とても生々しく語られているシーンは読んでいてゾクゾクするような、薄気味悪いような気持ちになりますね。
男はどんな風に椅子の中で過ごしているのだろうかと、妄想を駆り立てられました。
トイレ用の袋と水、それと食べ物があれば、数日過ごしても問題ないと手紙には書かれていますが、どう考えても同じ体勢でいるのは難しいと思います。
案の定、男もしばらくすると体がおかしくなり、椅子から這い出すことが困難になったようです。
それでも椅子の中にいることに快感を覚えた男は、ずっとその場所に留まり続けます。
そうして、最終的に佳子の元へやってきたと語るのです。
妖しいムードの物語
江戸川乱歩の作品は、全体的に妖しいムードを漂わせています。
「人間椅子」を映像化された作品は、ドラマしか見たことがありません。その作品は、2004年の藤井隆さん主演ドラマ「乱歩R」の第一話です。
ちなみにこの一話目に出演されていたのが乙葉さんで、この共演をきっかけにお二人はご結婚されました。
このドラマで描かれていたストーリーは、原作とは違います。
妖しいムードの武田鉄矢さんが作る椅子に、乙葉さんが取り込まれてしまうという内容だったはず。
原作も面白いですが、映像化された作品も興味深いですね。