芥川龍之介の「芋粥」は、今昔物語集を題材にした短編小説です。内容は、望みを果たそうとするときの、人の気持ちの変化を捉えています。
願望は叶えたいが、望みどおりの状況になると人はどうなってしまうのか。それでも、やはり願いは果たしたいではないかと感じます。
そんな芋粥のあらすじとは、一体どんな内容なのでしょう。
芥川龍之介「芋粥」あらすじ
物語は、平凡な主人公の紹介から始まります。
五位のひそかな夢
主人公の五位は、摂政の藤原基経に仕える下級役人です。彼は四十歳過ぎでみすぼらしい身なりをしていることから、同僚たちにも馬鹿にされる情けない日々を送っていました。
だけど、彼はそんなひどい扱いを受けても、一切腹を立てることもなく無関心だったのです。そんな五位の唯一の楽しみが、年に一度、宮中の宴会で出される芋粥でした。
芋粥は当時とても高価な食事であり、天皇の食卓にも並ぶほどのもの。五位は、いつかこれを飽きるまで食べたいという、ひそかな夢を持ち続けていたのでした。
芋粥を食べに敦賀へ
ある年の正月に、芋粥を食べ終えた五位はふと、いつになったら芋粥に飽きることができるのだろうと口にします。
それを聞いていた将軍の藤原利仁はおもしろがって、五位にその願いを叶えてやろうと言い、北陸の自分の領地に彼を招くのでした。
戸惑いながらもその誘いに応じた五位は、利仁とともに都を出発します。二日間をかけてようやく敦賀にある屋敷にたどり着きました。
突然やってきた幸福への戸惑い
床についてみると、五位は何となく釣り合いの取れない不安に駆られます。芋粥が楽しみではあるものの、あまりにも急に長年の夢がかなうことになってしまったからです。
翌朝、五位が目を覚ますと、庭で芋粥の調理が行われていました。
大量の芋が粥になっていくのを見て、それを二日もかけてわざわざ食べに来たのだと考えると、なんだか情けない気持ちになる五位。
なぜかすっかり食欲も失せてしまったのでした。
大量の芋粥を前に思うこと
いよいよ芋粥が完成し、朝食の時間になります。食卓には大きな鍋にたっぷりと注がれた大量の芋粥が出されました。
しかし、五位は器に盛られた芋粥の半分ほどを飲んだところで手を止めてしまいます。
あれほど腹一杯まで飲みたいと思っていた芋粥が、たった半分飲んだだけでもうこれ以上は入らなくなってしまったのです。
芋粥に憧れていた自分を懐かしみ、幸福だったと思うのでした。
青空文庫:芥川龍之介「芋粥」