石長姫(イワナガヒメ)は、「古事記」や「日本書紀」に登場する女神さまです。
妹はコノハナノサクヤビメ(木花開耶姫)といい、こちらは有名な神さまなので聞いたことがある人も多いと思います。
しかしイワナガヒメは若干マイナーな神さまであり、実際に祀られている神社も妹より少なく、少し不遇な女神です。
今回は、そんな不遇な女神さまが縁結びの神さまになった理由をご紹介します。
イワナガヒメの縁結びへの想い
イワナガヒメの境遇は、女性なら誰もが感じたことがある、美に対するコンプレックスを呼び起こさせるようなものだと言えます。
妹の木花開耶姫はその名前のイメージ通り花が咲くような美しいお顔ですが、姉の石長姫は岩のような印象の醜い女神さまです。
その容姿によってイワナガヒメは哀しい目に合うのですが、それをきっかけに縁結びの神として存在するようになりました。
容姿が悪くて哀しい想いをされた女神が、どうして縁結びのご利益があるようになったのでしょう。
イワナガヒメの哀しい境遇
ある時、美しいコノハナノサクヤビメに婚姻を申し込んだ男神さまがいました。
それはニニギと呼ばれる神で、日本の皇祖神(皇室の祖とされる神)である天照大神(アマテラス)の孫にあたるお方。
このニニギに、姉妹の父親は妹と一緒に姉も差し出したのです。しかしニニギは、イワナガヒメの醜さを嫌がり拒否しました。
妹娘を妻にと求める男に、姉娘もくっつけて嫁がせようとする父親の気持ちもサッパリ理解できませんが、不細工だからいらないと送り返すニニギもかなりの性格ですね^^;
それとも、神々の世界ではこのようなパターンは珍しくないのかもしれません。
辛い目に合っても人の幸福を願う
ニニギに送り返された現実を恥ずかしく思ったイワナガヒメは、これからは人の縁を結ぶと宣言されます。
そうして、京都の貴船神社にある結社(ゆいのやしろ)に鎮座したと伝えられているのです。
結局ニニギや父親に翻弄されたイワナガヒメですが、その境遇に打ち沈むこともなく縁結びの神として存在しています。
悲しい目に合ったからこそ、自分のような想いをする人を少しでも無くしたかったのかもしれません。
そんな境遇にもかかわらず、人の幸せを願う姿勢はとても立派であり、素晴らしくも感じますね。
貴船神社の縁結びのご利益
貴船神社は本宮・結社(中宮)・奥宮と分かれて建立されており、本宮と奥宮の中間に位置する結社にイワナガヒメは祀られています。
京都の貴船神社と聞けば「丑の刻参り」が印象深いと思いますが、元々は呪詛がメインではありません。
丑の刻に参拝すると願いが叶いやすい
「丑の年の丑の月の丑の日の丑の刻」に、貴船山に貴船明神が降臨したという伝説があります。
そのため丑の刻に参拝すると願いが叶いやすいとされているのですが、この言い伝えから丑の刻に呪詛を行えば成就すると言われるようになったのです。
時代と共に伝承が変化していったと考えられます。
自分の幸せを願うのも他人を呪うのも、人によってはどうしても叶えたい願いのひとつなのでしょうね。
できれば人を呪い続けるのではなく、とっとと忘れて自分の幸せを願うほうがイワナガヒメも喜ぶはず。
和泉式部のエピソード
呪詛がメインではない証拠に、平安時代には女流歌人・和泉式部が心変わりした夫との仲を取り持って欲しいと、貴船神社に参拝しています。
貴船の神さまに自分の切ない想いを歌にして詠んだところ、社の中から「そんなに思いつめないように」と返事が返ってきたとか。
それから和泉式部は無事に夫と円満な関係になれたと伝わっています。このエピソードから、平安の時代から縁結びの神社として知られていたことが分かりますね。
現代では丑の刻参りが有名になっていますが、本来は心願成就・縁結びのご利益がいただけるのです。
イワナガヒメと人の寿命
イワナガヒメはとても立派な女神で、地味ながらも縁結びの神として祀られています。しかし驚くことに、実は人の寿命が短くなったのは、この女神さまが原因だと神話は伝えているのです。
石長姫と木花開耶姫の父親は大山祇神(おおやまつみ)という神で、岩のように永遠になるようにとの理由から姉娘も差し出します。
しかし石長姫が送り返されたことに怒り、これから天孫の寿命は短くなるだろうと言ったのです。
妹と同時に姉も差し出すなんて変だと感じましたが、父親は父親で考えていたのですね。
天孫が永く繁栄する様にとイワナガヒメも差し出したのに、その好意をニニギはあっさり拒否したということになります。
人が神のように長く生きられないのは、この出来事がきっかけだったと神話の世界は伝えています。
不思議な神話の世界
神話の世界は人とは違った不思議な展開が起こるので、古事記や日本書紀は読み物としてけっこう面白いですよ。
ニニギの短絡的な行動
ニニギの短絡的な行動は、イワナガヒメを拒否しただけには留まりません。
ちなみにイワナガヒメを拒否したニニギは、一晩過ごして妊娠したコノハナノサクヤビメに対しても、たった一晩で子供が出来るはずない、それは自分の子供ではないと言い、妻の浮気を疑っています。
コノハナノサクヤビメのエピソードについてはこちらの記事に書いていますので、よかったら読んでください。
関連記事:コノハナノサクヤビメの神話。夫に浮気を疑われた女神のエピソード
ニニギの行動は非常に短絡的で、周囲を傷つけていますね。
エキセントリックな生まれ方
神話の世界って、けっこうなんでもありなんです。
目を洗ったら子供が生まれたりするので、一晩で子供が出来ることも不思議ではないのかもしれません。
ちなみに目から生まれたのはアマテラスです。
父であるイザナギが川で穢れを落とすために禊をしていたのですが、左眼からはアマテラス、右眼からはツクヨミ、鼻からはスサノオが誕生しています。
神話の世界はエピソードがエキセントリックでけっこう面白いですよ。
まとめ
イワナガヒメにはとても美人な妹コノハナノサクヤビメがいて、妹を妻にと望んだニニギに、姉娘も一緒にと父親に差し出されます。しかしその容貌の醜さから、送り返されてしまうイワナガヒメです。
そんな境遇に陥ったにも関わらず、これからは人の縁を結ぶのだと宣言されて、縁結びの神さまとして貴船神社の結社に鎮座されています。
そしてこのニニギの行動によって、人の寿命は短くなったと神話の世界は伝えます。
人とのご縁に悩んでいるのなら、イワナガヒメのご利益に縋ってみてはいかがでしょうか。哀しい想いを分かっている女神さまですから、きっと心願を成就してくださると感じます。