泉鏡花の「高野聖(こうやひじり)」は、明治33年に発表された短編小説です。怪奇譚の名作とされているこの作品で、泉鏡花は人気作家となりました。
それでは幻想的な「高野聖」のあらすじを簡単に紹介します。
泉鏡花「高野聖」あらすじ
僧が不思議な体験談を語る物語となっています。
旅僧の不思議な体験
若狭へ帰郷する青年は、その列車の車中で一人の旅の僧に出会います。
敦賀に一泊するという旅僧に、青年は同行することに。宿では、若いころの僧が、行脚で体験した不思議な話を聞きました。
かつて僧が信州の松本へ向かう際、富山の薬売りの男が先を追い越して行きました。
その男が危険な旧道へと進んでいったため、僧は彼を連れ戻そうとして後を追うのです。
しかし、追いかけた男は見つからず、気味の悪い蛇や蛭のいる道に難儀します。
なんとか切り抜けると一件の家にたどり着き、そこには美女と奇妙な男と一頭の馬がいました。
怪しげな山家の男女
僧の体は傷つき汚れていたため、親切な美女は彼の体を洗うなどして、世話を焼いてくれます。
僧はとても良い気分でしたが、その美女はいつの間にか服を脱いでいました。
しかし、帰り道では、こうもりや猿が彼女にまとわりつきます。二人が家に戻ると、馬引きの男が留守番をしていて、僧を不思議そうに見ているのです。
夜になり、美女と男を交えて夕食をとることになりました。ですが、怪しげな雰囲気と獣の気配が絶えず、僧は経を唱えながら床につくのです。
心惹かれた美女の正体
翌朝、僧はその家を出発し、里に向かいました。だけど、美女のことが忘れられず、僧侶の身を捨て彼女のもとへ戻ることを考えます。
そのとき、昨日の馬引きの男に再び出くわすのです。彼は昨日の馬を売り、美女のために食料を手に入れてきた帰りでした。
しかし、僧の心を見ぬいた男は、あの美女の秘密を話し始めます。
実は彼女は人間ではなく、肉体関係をもった旅人たちを動物に変えてしまう、魔性のものだというのでした。
我に返った僧
馬引きの男によると、美女は昔、村医者の娘で、病を治す不思議な力を持っていたのだそうです。
しかし、洪水により村人の大半が亡くなってしまい、生き残ったもの同士で山中に暮らすうちに、人間でないものに変化してしまいました。
僧が昨日目にした動物たちは、皆ここを通りかかった旅人だというのです。それを聞いた僧は、目が覚めた思いがします。
そして雨の中、踵を返して里へと駆け下りて行くのでした。
感想
物語は怪しくて色っぽい美女に魅せられたお坊さんが、彼女の正体を知って逃げ出すという内容になっています。
怪奇小説をよく読む方だと、この高野聖は好きなのではないでしょうか。
官能的な妖しさ
この小説は、幻想的な雰囲気に、官能的な要素もあると思います。
特に、真面目な僧が虜になってしまうほどの美女を表現する文体は、艶かしいというか、生々しいというか、なんともいえない妖しさにドキドキしました。
いつの間にか全裸になっていた美女。彼女はお坊さんにも、「早く脱いでしまいなさいな」というような雰囲気を出すシーンがあるのですが、この先どうなってしまうのだろうと手に汗握りますね。
幻想文学の面白さ
怪奇小説のようでもありますが、怪談というほどの怖さはありません。しかし、妖しいムードにはとても引き込まれる作品だと思います。
幻想文学の先駆けとして知られている泉鏡花。文体は難しいですが、じっくり読むと意味は伝わってくるので、機会があれば読んでみてはいかがでしょうか。
参考:泉鏡花「高野聖」青空文庫