山本有三(やまもとゆうぞう)の代表作「路傍の石(ろぼうのいし)」は、未完で終わっている小説です。
この作品が最初に発表されたのは昭和12年、戦争の影響が色濃く反映されていた時代になります。そのため検問によって様々な制約がありました。
結局、山本有三は何度か書き直そうとしましたが、完成するまでには至らなかったのです。そんな「路傍の石」のあらすじとは、一体どんな内容だったのでしょうか。
山本有三「路傍の石」あらすじ
物語は、貧しい環境に暮らす少年の成長する様子を綴っていきます。
閉ざされた進学の道
小学六年生の愛川吾一は、担任である次野先生にも何かと目にかけられるほどの成績優秀な学生です。
しかし、吾一の家庭は父の庄吾がろくに働かず、母親のおれんが内職をすることでようやく生計を立てている状態でした。
そのため成績の良い吾一も、経済的な理由から進学を諦めざるを得ません。
近所の書店の主人である黒川による学費援助の勧めも、父の反対を受け叶わぬものとなります。結局卒業後は父の借金のために、街一番の呉服屋である伊勢屋に奉公に出ることになりました。
伊勢屋からの逃亡
伊勢屋で働き始めた吾一は、ある日主人の機嫌を損ねてしまうのでした。それからは辛く当たられ、先輩たちからもいじめられる辛い奉公生活を送ることとなります。
劣等生でもお金の力で中学校に進学している伊勢屋の息子を、恨めしげに眺めるばかりでした。
そんな中、母親のおれんが心臓発作で他界してしまいます。父の庄吾に電報を打ちましたが、彼は葬儀にも姿を見せませんでした。
吾一は東京にいるという父を訪ねるため、伊勢屋から逃亡します。
父を探して東京へ
上京して、父がいるという下宿屋へ足を運びましたが、そこに父はいませんでした。そればかりか、吾一はそこの女主人に丸め込まれて奉公人同然の待遇で働かされます。
しかし、ある日突然にそこを追い出されることとなってしまうのでした。
行く宛もなく途方に暮れていたところを、一人の老婆に拾われて吾一はその老婆の元にて住み込みで働くようになりました。そこで、かつての師であった次野先生と偶然の再会を果たします。
恩師との再会と再びの学問への夢
次野先生との再会で、吾一はある事実を知ります。それは、書店の主人の黒川から吾一の学費にと渡されていた金を使い込んでしまったということです。
泣きながら詫びる次野先生に、お金のことはもういいと告げます。そして、彼の尽力により吾一は夜学に通うことができるようになり、再び学問への夢を託して奮闘していきます。
そして勉強しながら印刷所で働く吾一の元に父親がやってきてまた迷惑を掛けられますが、それでも一生懸命働く吾一は会社でも認められて独立します。
感想
貧乏で父親がろくでないしだったせいで吾一は不遇の人生を歩みます。自分より勉強が出来ない同級生が学校に通っている姿を見ることはとても屈辱だったと思います。
それでも学問への道に進み独立するまでになりますが、ここで物語は終わっています。
山本有三は続きを書こうとしましたが、当時は個人の主張は認められないような時代です。
自分の夢のために奮闘するこの物語の主人公の生き方は、軍国主義のなかでは異様だったのかもしれません。
きっと続編が出来たとしたら、逆境に負けない吾一は独立して成功しているでしょう。そんな風に妄想することも、未完の物語を読む楽しみのひとつですね。