古事記に描かれる日本の神話では、日本列島はイザナギ(伊邪那岐)という男神とイザナミ(伊邪那美)という女神の夫婦神によって生み出されました。この2柱は兄妹でもあります。
神々にとって、兄妹婚は理想なのだそう。古代の皇族でも近親婚が行われていたので、古事記が編纂されたころの影響もあったのかなと思います。
(681年前後に編纂が始まったとされる古事記は、712年に天皇へ献上されています)
このイザナギとイナザミは仲の良い夫婦だったけれど、黄泉の国で大げんかして、別れることになったのです。
夫婦神による国生み
最初に高天原(たかまのはら)に現れた5柱を別天神(ことあまつかみ)、その次に生まれた神々を神世七代(かみよのななよ)といいます。
神世七代の一代と二代は独神ですが、三代から七代までは夫婦神となっています。イザナギ・イザナミ夫婦神が最後の七代です。
日本列島は、イザナギ・イザナミ夫婦神によって生まれました。この作業を「国生み」といいます。
イザナギ・イザナミ夫婦神が高天原の神から賜った「天の沼矛(あめのぬぼこ)」を手にして、天の浮橋(あめのうきはし)から海に矛を下ろします。
「こおろ、こおろ」と掻き回すと島ができました。この島を「オノゴロ島」といいます。
天瓊を以て滄海を探るの図(Wikipediaより)
オノゴロ島に降り立った夫婦神は次々と島を生み出し、日本列島が完成しました。国生みが終わると、夫婦神は神生みを始めます。
海の神、河の神、山の神、風の神などを生んでいくイザナミ。
多くの神々を生んでいく途中、火の神カグツチを生んだときに負った陰部のヤケドがもとで、イザナミは亡くなります。
妻の死に悲しんだイザナギは、原因となったカグツチを手にかけます。
我が子を手にかけるほど悲しんだイザナギは、愛するイザナミを忘れられません。
そこで、黄泉の国まで会いに行くことに。
黄泉の国で再会する夫婦神
しかし、会いに行ったイザナミは、「この国の食べ物を食べてしまったので、もう戻れません」と。
「ただ、せっかくあなたが来てくれたので、黄泉の神々と相談してきます。そこで、お願いがあります、決して私を見ないでください」とイザナギに伝えて、イザナミは黄泉の神々のもとへ。
これでイザナギが大人しくしておけばいいものを、待たされたことでしびれを切らし、イザナミの姿をのぞいてしまうのです。
そのイザナミは蛆にまみれ腐敗した変わり果てた姿だったことから、イザナギはびっくりして逃げ出します。
「よくも恥をかかせたな!」と追っ手を差し向けてくるイザナミ。あれほど愛し合った2柱は、憎しみをぶつけるようになったのです。
イザナミの追っ手を振り払いイザナギがたどり着いたのは、黄泉比良坂(よもつひらさか)と呼ばれる黄泉の国と生者の国との境です。
(現在の島根県松江市東出雲町が、黄泉比良坂のあった場所だとされています)
東出雲町の黄泉比良坂・伊賦夜坂(Wikipediaより)
イザナギは黄泉比良坂を大岩で塞ぎ、イザナミが追ってこられないようにしました。
その姿を見たイザナミは、「あなたがそのようなことをするのであれば、私は一日に千人の人間を手にかけましょう」といい、対してイザナギは、「それならば、私は一日に千五百人の人間を生み出そう」と返すのです。
あれほど愛し合っていた夫婦神は、お互いへの憎しみから、人間の命をその手でつかみとろうとします。
ただ、イザナギも我が子を手にかけるほどイザナミを愛していたのに、姿が変わってしまったからといってアッサリ手のひらを返すなんて。
たしかに蛆まみれで腐っている姿は恐ろしいけれど……。
こうして日本列島を生んだ夫婦神は、大勢の人間を巻き込んで別れてしまいました。ある意味、日本で初めての離婚かもしれません。
その後、イザナミは黄泉の国の神に、イザナギは現世の神になって2柱は永遠に決別しました。
参考書籍
- 竹田恒泰「現代古事記」
- かみゆ歴史編集部「マンガ 面白いほどよくわかる!古事記」